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少し切ない童話

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                ロボットからの花束 

ふと目が覚めると、静かに揺れる波音と、ぼんやりと浮かぶ月に見守られていた。砂浜に流れ着いた僕は安心してまた眠りについた。

「トントントン!カンカンカン!」身体にひびくにぶい音。「動かないぞ!壊れているんじゃないか!」。痛みで目が覚めた僕は子供たちに囲まれていた。海水で関節が錆びついて動けない身体では何の反応も出来ないでいると、子供達はつまらなそうに離れていった。

僕はもう用済みになったロボット。スクラップにされてたはずなのになぜこんな場所にいるのだろう?。何もできないまま、また夜が過ぎていった。
「ドクン!ドクン!、ドクン!ドクン!」。心臓からエネルギーが体中に広がるのを感じた。目が覚めると、僕に心配そうな表情でのぞき込んでくる少女がいた。少女は僕の枯れた心臓に水を注いでくれている・・・少女は「また来るからね」と言って去って行った。

僕たちロボットは花の生命力で生かされていて、身体が完成すると最後に花の種を心臓に植えられて命を与えられる。眠っている僕達の心臓から植えられた花の根が体中に伸びてきて、目が覚める頃には身体が自由に動くようになり、ロボットとして命を授かる。そして、僕を選んでくれた家族と一緒に暮らすんだ。

僕の思い出の中には、今までの幸せがいっぱい詰まっているんだ。家族との暮らしで助けあったり協力しあって、生活していく中で触れあいながら優しさを知り、喜びや悲しみを覚えていくんだ。一番の思い出は、僕を迎えてくれた家族が僕の部屋を作ってくれたんだけど、いつも子供が僕のベットに入ってきて、気持ちよさそうに眠るんだ。その笑顔を想うだけで幸せな気持ちになるんだ。

ずっとこの家族と暮らせたらって思うけど、僕たちロボットにも寿命があって、古くなってくると故障するようになる。力がなくなってきたり、言葉を覚えられなくなったり、約束を忘れてしまったり。そうなってしまうと家族に迷惑をかけるから、僕らを管理している会社の人が来て、植えられてる心臓の花を枯らされて眠らされてしまうんだ。僕たちロボットが誤作動を起こして人間にケガをさせないように。

こうして用済みで捨てられた僕はもうあの家には帰れない。だからきっと僕がいた家族には、新しいロボットが僕の代わりに来て、僕のことなんて忘れられているんだろう。僕はきっと眠っている間にスクラップ船に乗せられて海に投げ捨てられたんだ。こんな古びたスクラップの僕なのに、なぜあの少女は優しくしてくれるのだろう?。

また次の日も毎日毎日、少女は枯らされた心臓の花に水を与えに来てくれる。でもまだやっぱり動けないししゃべれない。こんなに優しくしてくれる少女にお礼も言えないなんて、悔しくて情けなくて悲しいよ。そんな日々が続いても少女はスクラップの僕を見放さないで毎日逢いに来てくれたんだ。

そしてある日のこと。少女の嬉しそうな声が聞こえてきたんだ!。「咲いた!咲いた!」。首も動かせないから真上の空しか見ることができてなかった僕の重たい頭を、少女が一生懸命抱えながら僕の心臓の方が見えるようにかたむけてくれた。僕の頭を膝に乗せて抱えながら見せてくれた景色。

それは僕の心臓から溢れんばかりに咲き誇った花たちだった!そして、その花たちは感謝や幸福の想いを秘めた花たちだった。キレイに咲いている花たちを目にして、少女の温もりがじわじわ伝わってきた。少女は僕を抱えながら話しを始めた。

「ロボットさんを見つけた時、空の心臓に花の種と手紙が入っていたのよ。その手紙を読むわね。君が来てくれて、花を育てたり、花に親しんで、花に秘められた想いを知り、花に癒され、その花に囲まれて家族が幸せに暮らすことができました。ずっとこの幸せが続くと思ていたら、君の故障が増えて来て、修理の人がもう限界がきていますって言われたんだ。原因を聞いたら、冬になると毎日オーバーヒートしてたって言われてね。それを聞いて気が付いたんだ!。
毎日子供と一緒に眠ってくれていた君は、冬に子供の身体を冷やさないように自分の身体の熱を保とうとして、夜も眠らないで無理させていたんだね。
そんなに優しい君の苦労に気付けなくて本当にごめんなさいね。ずっと君を忘れないよ。本当にありがとう。幸せをありがとう。って書かれていたの。だからこの想いを込められた花の種を咲かせて、あなたに見せてあげたかったの」。少女の話に僕は嬉しくて嬉しくて、幸せだった思い出が溢れるほどに込み上げてきた。

次の日少女が逢いに来たとき、砂浜には文字が「ありがとう」と描かれていた!。そして、ロボットの手には、心臓に咲き誇っていた花たちが握り締められていた。それは、ロボットが最後の力を振り絞って伝えたかった、少女への感謝の花束だった。


                 泣き虫ピエロ

 ある村に、悲しくないのにいつも涙を流している人間になりきれない道化が住んでいました。
人間になりたい道化は、少しでも人間に近づきたくて、笑わせたり楽しませたりして暮らしておりました。
 ある日、道化は少女に質問をされました。

少女「道化さんはなぜいつも笑わせてくれるの?」
道化「人間が笑ってくれると、その人の心を覗くことができるんだ」

 少女はまた道化に聞きました。

少女「心を覗いて何をするの?」。
道化「笑ってくれた人の心は涙で満たされているんだ。
   だからその涙を吸い取って、また笑ってもらえるように、心の中を空っぽにしておくんだ」。
   
 少女は道化の瞳が涙で溢れているのは、人間の涙で道化さんの心かいぱいになっているからだと知りました。

 少女は道化に聞きました。

少女「道化さんの心を覗くにはどうすればいいの?」
道化「それば僕には分からないんだ・・・」

 道化は自分に心が無いことを知りません。
涙を溜める心が無いから、いつも涙が溢れてしまうのでした。ただ、瞳から溢れてしまう涙を拾い集めて、七夕の日に空に撒くと、いつか人間になれると信じているのです。